扉を開けて

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「はぁ~……」 喉の奥から出た深いため息が、部屋の中に吸い込まれていった。 明るい光がカーテンの隙間から差し込み、ぼんやりしていた頭が徐々にはっきりし始める。 あぁ、また朝がやって来たな。 半開きになった目に映るのは、いつもの見慣れた自分のアパートの部屋であった。 (あ、そっか。今日は土曜日だっけ) 枕元に置いたスマホを持ち上げて確認したあと、慎二はもう一度深く息を吐いた。 11時30分。よくもこんな時間まで寝たものだ。 ここのところ残業続きだったためか、大分疲れが溜まっていたのだろうか。 昨晩仕事を終えてから同僚と飲みに行ったのだが、部屋に帰って来たところは覚えていなかった。 毎日疲れ果てて帰ってきては、バタンキューでいつの間にか朝が来る。 上司の顔色を見てはパソコンを叩き、取引先との付き合いも精神を削る。 数字ばかりと格闘し、何を目指してるんだっけと自分に問う余裕もないぐらい、同じ毎日のくり返し。 時々飲みに行くことが少しの救いになっている気がしてはいたが、それも本当にそうだったかは怪しいものだ。 まだハッキリしない頭ではあったが、お腹が空いていることは分かった。 トイレにも行きたい。生理現象には勝てない。 「よっこらしょ」と掛け声を掛けながら、ゆっくりと布団から起き上がる。 何だかおやじ臭いなと思いながらも、実際には28歳なのだから思い過ごしだ、しかし20歳の時と比べると動きがやっぱり鈍くなったような気もするしなぁ……もう若くはないのかなぁ。 そんなふうにぼんやりと考え事をしていると、部屋の片隅に置いてあったみかんの段ボール箱に躓いて転びそうになった。 一週間前、実家から何か送られてきたのだが、電話してきた母の話によると物置で発掘されたものを詰め合わせてあるらしかった。 何が入っているのか知らないが、やたらとずっしりしている。 しかし、どうせくだらないガラクタしか入っていないのだろうし、開けるのも面倒なのでそのままにしてあったのだ。 「こんなもん送ってこられても迷惑だよなぁ。食う物を送ってきてくれりゃあ助かるんだっつーの」 苦い顔で立ちあがった慎二はぶつぶつと呟きながら、トイレの戸を開けた。
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