4人が本棚に入れています
本棚に追加
出すものも出し、頭もハッキリしてきたところで、朝食が無いことに気が付いた。
12時近くになってしまっているのだから、朝食というより昼食になるのかもしれないが、どちらにしても食料が家にない。
「くそっ、コンビニ行かなきゃ」
実家暮らしであれば、きっとこんなことはないのだろう。
あるいはそろそろ良い年齢なのだから、奥さんがいれば素敵な料理を作ってくれるに違いない。
だが、それならば多分こんな時間までゆっくり寝ていることも出来ないだろうからな、と思いながら、Tシャツとジーンズに着替えた慎二は通勤カバンの中をまさぐった。
「財布、財布っと……あった!あれ、何だこれ?」
手に掴んだ財布に引っかかって何か飛び出し、そしてチャリ~ンという音を立てて床に落ちた。鍵だ。
床の上から拾い上げ、慎二はじっとそれを見つめた。
瞬間的に昨日の同僚と飲みに行った居酒屋での出来事が蘇ってきた。
『あの、落としましたよ?』
散々飲んで食べたあとのお会計の時。
慎二がレジの前で立っていると、後ろから不意に声を掛けられた。
振り返ると、長い髪の女性がにっこり笑いながら立っていた。
見たところ20代前半ぐらいだっただろうか。
透明感のある色白の肌に真っ白なワンピースと黒い髪のコントラストがやけに印象的だった。
新手のナンパかとも思ったが、どうやらそうではなかった。
『あれ、ホント?どうもどうも!助かりました!』
女性から手渡されたものは、5cmぐらいの鍵。
レトロで、金色に近い落ち着いた艶のある風合い。
明らかに自分のアパートのものではなかったはずなのに、酔った勢いだろうか、慎二はあっさりと受け取ってしまった。
レジの店員が支払金額を告げたので、とっさに慎二は自分のカバンの中にほいっとその鍵を放り込み、そのままになっていたのだった。
見ると、その鍵の胴体部分には小さな紙がくくり付けてある。
おみくじを枝に結んであるかのごとく、きゅっとしっかりくっ付いているのだ。
慎二はゆっくりとその紙を解いた。
最初のコメントを投稿しよう!