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「なに言ってんの? いまさら」
彼女は立ち上がり、腰に手を当てた姿勢で僕の方へ詰め寄った。
「今、初めてちゃんと水着を見たんだ」
「はい?」
彼女の表情がどんどん険しくなる。それはそうだ。
僕は続けた。
「今日は、初めて栞と海に来たのに、想像と違うことに戸惑ってばかりで、不機嫌になったり、焦ったりして、全然、栞のこと見てなかったから……」
彼女は口を真一文字に結んだまま聞いている。
「だから……」
「だから?」
「ごめん!」
僕は大きな声で謝り、頭を下げた。
栞は何も言わず、僕を少し見たあと、おもむろに右手を上げて、僕の背中に振り下ろした 。
空気がはじけるような音があたりに響く。
「痛ーっ!」
僕は思わず叫んでいた。
「これでチャラにしてあげる」
涙目になって、ヒリヒリする背中をさすりながら、僕は彼女のほうを見た。
20%くらいの笑顔が戻ってきていた。
僕は手を差し出し「ごめんね」ともう一度謝った。
「ほんとにね」言いながら彼女は、強く握り返す。
もう笑顔って言っていいくらいの笑顔になっていた。
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