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〈渡り〉は、里同士の交流を深め、山の幸海の幸を送り合い、そして──番う相手を、伴侶を探すために脈々と続けられてきた。
その歳から翼を操れるようになった若者の、最初の空の長旅とも言える行事だ。
ここでシュウに話を戻すが、つまり今回を逃すと来年の冬まで海の里に行く機会が無くなる。
イヨにも会ってみたい。
それも、冬に会いにきてもらうよりは、会いに行きたい。
それはシュウの負けん気から来た、ちょっとした意地だ。
風で流れた雨が、戸口にあたって音を立てる。隙間から入り込んできた風に蝋燭の明かりが頼りなく揺れた。
父がじっとシュウを見つめて言う。
「いつ雨が止むか分からんから、いつでも始められるようにしとけよ」
「うん」
と言われても、飛ぶ訓練の内容は、訓練が始まるまで一切教えられない。準備しようにも、シュウに出来るのは、ひとつ大人に近づく覚悟を決めることだけだ。
「足とかに怪我するなよ。裸足はいかんぞ」
「なんで足はだめなん?」
「お父さん」
首を傾げたシュウに、母が諌めるように声を上げた。
「っあぁ、言うてしもうたな……」
父が決まり悪そうに頭をかく。
「……まぁ、それくらいなら構わないかもしれませんけど」
「そ、そうだな」
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