紫陽花と水たまりと数え唄

11/19
前へ
/19ページ
次へ
 母の言葉に父がほっとした顔をした。シュウの家は母が強いのだ。父と比べると淡い印象の見た目からは想像もつかないが。  「いいか、シュウ。飛ぶときはな、足が鍵になる。だから怪我でもしたら飛べんのや」  「そうよ?。だから、ちゃんと履物履いて外行くのよ?」  「わ、わかった」    ──これ、絶対母さん草履のこと言いたかっただけやろ!    シュウはさっくり釘を刺された気がした。  (でも、それ以外の準備は出来んのよな……)  ままならない状況と過ぎてゆく時間。シュウは少しずつ焦り始めていた。 ***  「行ってきまぁーす!」  「行ってらっしゃい、草履履いてくのよー!」  「分かっとる?!!」  朝霧の中。  小雨を跳ねさせて、シュウが家を飛び出していく。蓑は自分の、草履はちゃんと履いてある。ついでに笠も被ってきた。  今日も畑と田んぼの手入れをした後、早めに帰って母と勉強だ。  あれから数日経ったが、雨のせいで、飛ぶ練習は始められない。  シュウは霧に溶かすようにため息をついた。    とうもろこしの小さな房を間引いていく。傾いた苗を添え木で固定する。  雨が土を流し、少しばかり根が覗いていた。  (晴れたら土を盛り直さんとな)  そう思って三秒後。  ────だからいつ晴れるんだよ!?  こう思うわけだ。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加