紫陽花と水たまりと数え唄

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 長い長い雨に、そろそろシュウの焦りが一周回って怒りに変わり始めていた。  「雨、降り、過ぎ、だろっ!」  言葉の切れ目切れ目に、間引いたとうもろこしを草捨て場にぶん投げる。怒りの発散方法まで発見してしまっているシュウである。  それからシュウは、そら豆を固定し直し、いんげん豆の形の悪いサヤを間引き、水に浸かった瓜を高い位置に引き上げた。  手際よく仕事をこなしながら、合間合間に溜まっているモノを景気よく発散する。  そうして、残るは一番下の田んぼだけとなった。  畦でぐっしょり濡れた草履を脱ぐ。  しっかり手入れされた田んぼの土は、裸足で入っても怪我をすることはない。  裾をたくし上げて田んぼに入る。雨で冷たくなった水と、重たい泥の感触が膝下まできた。  虫が多く、風が無い里は、稲と稲の間が広い。  根を傷めないようにそっと足を踏み出しながら、稲を一本一本丁寧に見ていく。  くるりと丸まった葉を見付けると、葉を傷めないように開く。中から芋虫を、シュウはひょいと水面に放った。  こうしておけば、また葉につく前に蛙かいもりが食べてくれる。     
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