紫陽花と水たまりと数え唄

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 唇を尖らせる、とシュウは手の平についた血を水で洗った。少しばかり急ぎ気味で作業を進める。  一反終わったところで、田んぼからあがった。  一応草履を履き直し、沢近くまで下りる。雨に濡れた草むらを探ると、すぐに鮮やかな藍色が目についた。露草だ。  手を伸ばして露草の葉を摘み取る。  「うわっ」 些か力が入りすぎたのか、草むらを揺らしてしまい盛大に腕が濡れた。  「あーもう」  一気に冷たくなった腕に低く呻いた。  摘んだ葉を指で強く揉む。指が緑色に染まると、蚊に刺されて痒くなりだしている頬にその汁をつけた。父から教わった痒み止めだ。  少しじっとしていると、痒みはゆっくりと引いていった。  か細い雨と、低く太い沢の音が二重奏を奏でている。  なんだか、畑仕事を終えて、急に疲れた気がした。  (ちょっと休んで行ったってええよな?)  ただでさえ、谷底近いここから家まではきつい斜面が続く。屈みっぱなしで凝った腰をよいしょーと伸ばすと、シュウは近場の岩に腰を下ろした。  岩に付けたところから雨水があっという間に染み込んできて、シュウの尻に冷たい感覚が広がった。  長いこと雨に打たれて、流石に身体が冷えてきた。ぶるりと身震いをする。     
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