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何か動くものか視界に引っかかって、目をやる。すると、シュウの前の水たまりで、蝸牛が溺れていた。
「お前勇気あるなぁ」
明らかに身の丈より深い水の中で藻掻いているのを掬い出してやる。
「もう無茶するなよ」
水たまりから離れた地面においてやると、蝸牛は、すぐに二つの角を揺らして見えなくなった。
ふー、と長い息を吐く。鈍く痛む首を回して横を見ると、
──目が覚めるような青が目の前にあった。
紫陽花だ。
じっと雨粒をたくさん抱えて光る青を見つめていると、ふと、海のイヨから来た手紙を思い出した。
シュウの里で咲く紫陽花は、青い。けれど、イヨの里で咲く紫陽花は濃い桃色なのだそうだ。
ひとつ思い出すと数珠玉のように記憶が引き出されてくる。
丸い形の〈石〉。
白い〈砂浜〉。
青くて深い〈海〉。
イヨが文字で伝えてくるものを、シュウは何一つ知らない。
ただただ、文字と、自分が知っているものから想像するだけだ。
丸い〈石〉は、母が作る饅頭のように丸いのだろうか?
白い〈砂浜〉は、一面紙を敷き詰めたようなのだろうか?
青くて深い〈海〉は、沢の淵とは違うのだろうか?
何度も思い描いた言葉で、またぼんやりとした形を作る。
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