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一気に眩しくなった視界に、シュウは思わず目を瞑って下を向いた。
恐る恐る目を開けると、蝸牛が溺れていた水たまりが目に入る。
シュウは目を見開いた。
────蒼かった。
久し振りに覗いた晴れ間が、水たまりに溶け込んでいる。
蒼い蒼い水たまり。
「…………〈海〉もこんなかなぁ」
小さく呟く。
焦がれる想いを吐息にのせると、シュウはゆっくり立ち上がった。
ずっと被っていた笠と蓑を外す。
そして、蒼い、空を見上げた。
「蒼い……」
澄んだ濃い蒼に、目を細める。
知らず、シュウの背に、大きな大きな翼が広がった。天翔る翼。
ひとつ、ふたつとゆったり羽ばたくそれが、空への準備だとシュウはまだ知らない。
四十九枚の羽が、夏の色を含んだ風に揺れる。シュウの翼が風を打つまで、もうすぐだ。
蒼を連れて来た風は。
海から来た風だろうか。
────果たして。
シュウの蒼い蒼い視界に、南から来た鳩が、嬉しそうに飛んでいた。
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