紫陽花と水たまりと数え唄

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 ここで玄関を見られるとまずい。  ──向かんとってくれ!  片頬を引き攣らせながら足速に風呂場に向おうとするが、  「あっ、アンタまた裸足で外歩き回って、危ないって言ってるのに!」  ──駄目だった…!!  残念ながら玄関に置きっぱなしにしていた、乾いたままの草履を見付けられてしまったようだ。  「ふ、風呂入ってくる!!」  これ以上言われる前にと風呂場に走り込む。  心臓をばくばくさせながら戸を閉めると、「床に足跡つけて走りなさんな!」と叱る声が聞こえた。  「……最初っから全部かよ……」  ため息をつく。  年頃の一人息子に、母親は厳しい。 *** 白い湯気の中、薪の匂いに包まれる。近くの山で雉が鳴いた。  「っはー、ぬくい……」  湯桶に膝を抱えて浸かる。思わず声が漏れた。  目を閉じると、ゆっくり身体の端から熱が染み込んでくるのが分かる。雨に濡れて冷えた体が、熱い湯でじんと痺れる気がした。  「ただいまって言わんかったらばれんのになぁ……」  狭い風呂場だ。小さな声が大きく反響して返って来る。  シュウはさっき叱られたことの反省を考え始めた。  次しない、ではなく、次はどうばれずにやるか。  懲りずに次を考える辺り、完全に反抗期だ。     
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