紫陽花と水たまりと数え唄

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 今日はただいまの声を聞きつけられてばれたが、  「ただいまって言わんかったらもっと怒られるんだよなぁ」  そうなると元も子もないのである。  以前板の間で正座のまま延々と説教された事を思い出して身震いする。  「……やめとこう」  余計な記憶を引っ張りだしてばつが悪い。湯に口をつけると、そのまま息を吐き出した。弾ける泡がシュウの顔に飛沫を飛ばす。  と、外から「ただいまぁー!!」という太い声が響いて来た。今家に帰ってくるのは父親しかいない。    自分と同じく雨に濡れているであろう父親に風呂場を明け渡すべく、シュウは悪巧みもそこそこに立ち上がった。   ***  「おかえり父さん、風呂空いた」  「おぅ、ありがとな」  風呂から出ると、炊きたての米の香りがシュウを迎えた。腹が鳴る。  裏口で水を滴らせる父親にひと声かけて土間に向かう。  白い巾で髪をまとめた母が、シュウに気付いて笑顔で振り向いた。    「これお願いね」    「うん、これなんの肉?」  「今日は猪。魚がとれれば良いんだけど、この雨だから」  今晩の献立は、味噌に漬け込んだ猪の肉を葉野菜と蒸したものと、煮干しでだしを取った汁物と、井戸水で冷やした瓜だ。それに玄米が加わる。     
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