0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
シュウたち里の子供は、十五になって風切羽が生え揃うと、親から飛ぶための訓練を受ける。
つまり、シュウも今年から飛ぶ練習をするのだ。
シュウはそれをずっと楽しみにしてきたが、降り続く雨のせいで始められない。
「夏に間に合わんかったら、〈夏渡り〉はどうなるん?」
「そりゃあ無理やろう」
「それは嫌だぁ?……」
シュウは口をへの字の曲げた。
浮かない顔の理由はもう一つ。
もし夏までに飛べるようにならなければ、ある行事に参加できなくなるのだ。
その行事を――――〈夏渡り〉という。
昔々、ご先祖様たちの暮らしが安定してしばらくたった頃。一人、よそ者の男が里に迷い込んできたそうだ。
珍しい大きな嵐が通り過ぎた後だったらしい。
怪我をしてひどく弱っていたその男は、果樹を取りに行っていた里人に山で見つかった。
その頃はみな鴉のような黒髪黒目だった里人たちと違い、男は雀のような明るい茶色の髪と目をしていた。
不思議に思ったが怪我人を放ってはおけず、里人はその男を里に連れ帰り、手厚く看病した。
やがて、回復してきた男に里人は聞いた。
『このような山奥にどうやって来られたのです?』
男は答えた。
『飛んできたのです。
最初のコメントを投稿しよう!