紫陽花と水たまりと数え唄

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 シュウたち里の子供は、十五になって風切羽が生え揃うと、親から飛ぶための訓練を受ける。  つまり、シュウも今年から飛ぶ練習をするのだ。  シュウはそれをずっと楽しみにしてきたが、降り続く雨のせいで始められない。  「夏に間に合わんかったら、〈夏渡り〉はどうなるん?」  「そりゃあ無理やろう」  「それは嫌だぁ?……」  シュウは口をへの字の曲げた。  浮かない顔の理由はもう一つ。    もし夏までに飛べるようにならなければ、ある行事に参加できなくなるのだ。  その行事を――――〈夏渡り〉という。    昔々、ご先祖様たちの暮らしが安定してしばらくたった頃。一人、よそ者の男が里に迷い込んできたそうだ。  珍しい大きな嵐が通り過ぎた後だったらしい。  怪我をしてひどく弱っていたその男は、果樹を取りに行っていた里人に山で見つかった。  その頃はみな鴉のような黒髪黒目だった里人たちと違い、男は雀のような明るい茶色の髪と目をしていた。  不思議に思ったが怪我人を放ってはおけず、里人はその男を里に連れ帰り、手厚く看病した。  やがて、回復してきた男に里人は聞いた。  『このような山奥にどうやって来られたのです?』  男は答えた。  『飛んできたのです。     
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