紫陽花と水たまりと数え唄

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 本当はこんなに遠くまで来る気はありませんでしたが、あいにくと嵐に捕まり、こうなってしまいました』  里人は驚いた。自分たちの他にも、同じように空を飛べる者たちを知らなかったからだ。  それを聞き、外の世界を先祖の言い伝えでしか知らなかった里人たちは、男に話を聞かせてくれるよう頼んだ。  聞いて更に里人たちは驚いた。  男の故郷は、ここと同じように翼を持つものが多く暮らしているという。  そして、近くには〈海〉というものがあり、大きな魚などががとれるらしい、とのこと。  『何だそれは、川とは違うのか』  里人たちはいたく好奇心をそそられた。  そうして里人は故郷に帰るという男に同行させてもらうように頼み込み、本当についていった。  結果。南へ南へと飛び、ついていった者たちは、海の方の里でたいそうもてなされ、すっかり気に入られ、気に入って帰ってきた。  それがきっかけになり、二つの里は交流を深め、夏と冬に代表者がそれぞれの里の幸を持って互いの里に遊びに行くようになった。  夏に山のものが海の里に行けば、冬は海のものが山の里に赴く。暮らしの妨げにならぬよう、滞在期間は約一月。  そして、次の年には訪問の時期を夏冬入れ替える。  これが〈渡り〉だ。     
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