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駅からの帰り、全速力で自転車をこぐ。
約五キロ産業道路をひた走り、海岸に通じる下り坂で足を止め、後は位置エネルギーに任せ一息ついた。
ゆっくり角度を変えていた灯台が定位置に落ち着く。岬と岬が作る一点透視の風景が、ちょうど真ん中に空と海が重なる構図になると、オレの一番好きな景色の完成だ。
シャーッ
ザザーン
シャーッ
ザザーン
大きな入り江の海岸には、海水浴やサーフィンを楽しむ者達がいるのが見えた。
この場所は地元じゃ有名だ。混まない、いつもガラガラ、それが田舎町の良いところ、美点だと思う。
ザザーン
シャーッ
ザザーン
シャーッ
その美点を利用する。
息をおもいっきり吸い込んで。
「バッ、キャローーッ」
ストレスと一緒に吐き出した言葉は、波音と自転車のロードノイズで消される筈だったけど、恥の元となった。
その表情に台詞をつけるとしたら。
「バカね」
その娘は、真っ白いワンピースに黒いサングラス。麦わら帽子を風に持っていかれないように両手でおさえて、微笑んでいた。
明らかに笑われた。
この辺じゃ見かけない。どこの家の娘だろ。
何かういてたもの、格好が。
終わりかけの坂道で波音は消え、自転車を立ち乗りでキコキコとこぎ始める。
その場を逃げ去るみたいで、少し恥ずかしく思った。
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