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「海に行きたい!」
友人・渋谷慎吾の唐突な発言に、
「そうか、行ってらっしゃい」
ケータイから目をあげずに、一海直純は答えた。
指先は業務連絡のメールを作成していく。
「なんだよ、つれないなぁー。あと、メシ食う時にケータイいじんなよ」
「いや、悪い」
後段は正論なので素直に謝る。メールを送信。
「仕事?」
唐揚げに食らいつこうとしながら問われた言葉に、
「ああ」
ひとつ頷く。
「じゃあ仕方ないか」
そう言って笑う、大学のこの友人は懐が深い。所謂、お祓いやらゴーストバスターやらを生業にしている家系に生まれ、その仕事をしている自分を 知った上で、素直に受け入れてくれているのだから。
「そういえば、譲は?」
そういう話をしたことがない方の友人の姿が見えない。
別に約束しているわけでもないのだが、なんとなく昼休みは学食に集まってしまう。今日の午前は直純だけ別授業だったが、あとの二人は一緒のはずだ。
「教務課行ってからくるって」
「そっか」
頷くと、自分のカルビ丼に向き直る。
「で、なんだっけ? 海?」
「そう、行かない?」
「まあ、夏だしなぁ」
でも、どうせ、
「おまえ、ナンパしまくるつもりだろ?」
「おまえらと行くならしねーよ」
「どういう意味だよ、それ」
「だって、直は嫌いだろ? そういうの」
まあ、好きじゃないが。
「モテるのにねぇ……」
言外に見込みのない片想いは諦めろよ、と言われた気がする。被害妄想かもしれないが。
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