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「週末、海に行くつもりなんだよねー」
「カノジョと?」
「そう」
「うわぁ……」
「うわぁってなんだよ」
教室の後ろの方の席から、そんなノンキな会話が聞こえてくる。
暑いのになんでわざわざ海なんて行くんだろう。
そんなことを思いながら、沙耶は本のページをめくった。
高校の昼休み。沙耶は大体こうして本を読んでいた。教室内で本を読める程度に平穏なのはいいことだ。去年は付き合っていた恋人がモテたばっかりに、ファンの子からの嫌がらせで教室に居づらかった。と、未だに時折、現状の良い点を探してしまう。決して口にはしないが、嫌がらせがあっても去 年の方が楽しかったし、彼とは一緒に居たかった。
「どこ行くの?」
「スバル海岸」
「えっ、あそこでるんだろ?」
「なにが?」
「おばけ」
聞こえてきた言葉に、文字を読む目をとめる。顔は動かさず、聞き耳を立てる。
おばけだの幽霊だのというのは、沙耶の管轄だ。
「岩の上に女が座ってて、話しかけられると海に呑み込まれるって」
「なんだそれ、人魚?」
「信じてんの?」
「でも、先輩の友達も見たって。話しかけられる前に逃げたらしいけど」
よくある都市伝説のようだ。思っていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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