1人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、笹倉くんは来ないんだ?」
「そうなんだよー。なんでアイツこのタイミングで風邪なんかひくんだろうな」
「今回も、譲は円に会えないってわけか」
大学生三人が言い合っている。円の運転する車で海に向かうところだ。
窓から差し込む日差しは既に痛くて、沙耶は内心帰りたくなっていた。
それでも、
「あ、ほら。沙耶、見えてきたよー」
円の弾んだ声に顔をあげてみれば、窓の向こうに海が広がっている。
きらきらと光る水面に、自然と気持ちはあがる。
砂浜におりてみれば、確かに人は少ない。
日差しが痛いほど暑いことには変わりはないが、それでもなんとなく心地よいような気がする。ロケーションって大切だ。
とはいえ、張り切った円に引きずられて水着を買いに行ったはいいものの、海に入る気がない沙耶は上からパーカーを羽織ったままだ。足はちょっと 入ったけど。
「よっし、それじゃあ勝負よ!」
「望むところだ!」
しばらく浅瀬で遊んでいたが、何のスイッチが入ったのか、円と慎吾は泳ぎのレースを始めるらしい。
大学生って、子供だなぁ。
「二人とも、気をつけろよ?」
直純が呆れたように声をかけ、
「チーオ」
小声で自分の式神を呼び出す。青い鳥の姿をしたソレに、
「大丈夫だと思うけど、万が一おぼれたりしたら助けといて」
すごくしょうもない命令を告げた。心なしか、チーオがちょっと困った顔をしている。
「さて、沙耶。どうする? あの二人を見ているんでもいいけど。カキ氷でも買いに行く?」
かろうじて営業している海の家を指す。
この兄は、どこまでいっても優しい。
「あの二人を見ているのはちょっと面白そうだなって思うけど」
なんか、二人して異様に速いし。二人ともハイスペックなのに、能力を本当無駄遣いしているよなぁ。
「ちょっとね、探しているものがあるの」
「探し物?」
「そう、スバル海岸の魔物」
答えると直純は変な顔をした。
最初のコメントを投稿しよう!