帰郷

3/19
前へ
/19ページ
次へ
バカンスを家族と過ごすため、私はいま機中の人となっている。 子どもたちをつれてひと足先に現地入りしている妻から、 「すごいわ、あなた! こんな素敵なところ初めてよ、私! こんな場所がこの世にあるなんて! 子どもたちも大喜びよ! 嬉しいわ、ありがとう! あぁ、早くあなたに会いたい――」 搭乗前に電話をすると、妻は興奮気味にそう捲し立てた。 私は思わずあきれ笑い。 ふだん感情をあまりあらわにしない彼女が、ここまで気持ちを昂らせているのはめずらしい。思惑以上の好反応に、私の顔も自然とほころんでくる。 家族サービスなど数えるほどしかしたことのない、家長不適格の私に文句一つ言わず尽くしてくれる妻と、可愛い子どもたちと一緒に過ごすひと時――大切な場所・幸福な時間――妻同様、私自身も心の逸りを抑えられずにいた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加