20人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの偏屈な一本足野郎め!」
ヴィクの家の喧嘩っ早い二番目の兄貴が、会合の席でそう吐き捨てたのをきっかけに、彼は“一本足”と呼ばれるようになった。
本当の名前はスライだ。
僕だけが知っている。
彼の姿を見つけたミッキーもヴィクも、あからさまに嫌そうな顔をした。
「アイツ、もう来てやがる。一本足のくせに歩くのが早い」
「僕たちから“戦利品”を横取りするつもりなんだよ。嫌な奴」
「そうされないように、さっさとすませちゃおう」
僕らは“一本足”に背を向けて、浜に打ち上げられたいろいろな物のうち、再利用できそうなものを片っ端から麻袋に放り込んでいった。
しかし、そもそも僕らと“一本足”は競合していない。
僕らが必要としているものと、“一本足”が集めているものはまったく別だ。
それなら、穏やかにいけばいいのだろうけど、いい評判を聴くことがほとんどないので、どうしても態度が硬化してしまう。
本当は嫌いってほどじゃないのに、周囲が嫌っているから自分も嫌いになる……そんな感じなのだ。
僕も表面上は嫌っているフリをしている。小さな村でうまくやっていくには、みんなに合わせる必要があるからだ。そうしないと、彼のようにつま弾きにされる。
でも本当は、僕は“一本足”のことを、スライを嫌いではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!