生まれた時から

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望んだことなんてなかった。なに一つ。望んでいなかった。 生まれてきたいとか、生きたいとか、何かをしたいとか思ったことなんてなかった。 そう、学校に通いたいとか勉強をしたいとか、友達が欲しいとも思ったことは無かった。 みんな、どうやって生きてるんだろう。教室を見回してみた。お昼ご飯を食べながら、お弁当をつつきながら笑い合っている。 なにが面白いんだろう。 わたしは机に突っ伏していた。窓の外で木の葉が揺れている。その向こうで真っ青な空がわたしを見つめている。 あの日と同じだ。今日もあの日と同じように暑い。 制服のスカートは特に意味もなく二回折ってある。ももの裏が直接椅子にへばりついて気持ち悪い。 誰かに可愛いと思われたいわけじゃない。強いていうなら、同じになりたく無かった。スカートを一回も折らずに履いているような、そういう子たちと同じになりたくなかったんだ。 髪の毛は何度も染めていて痛み切ったロングヘア。ピアスは開けたり閉じたりを繰り返して、今は三つくらい空いている。 首から下げたネックレスは今の彼氏の前の前の前の前の、その前くらいの彼氏にもらったものだ。多分。もちろん正確じゃない。正確に言えば彼氏なんかじゃない。 付き合うことと付き合わないことの間にある境界線が分からないからとりあえず私は男たちを彼氏と呼んだ。そうじゃないとすれば、オトコと呼ぶしか無くなる。 痛いなあ、と思う。髪よりも私の心はパサパサに痛みきっている。きっと同じ教室にいる子のほとんどは処女だ。どこにでもある中堅公立高校の3年生。 クラスの半分は大学受験のための勉強をしていて、もう半分も進路を決め始めている。 みんな生きることに積極的だ。私にはその活力がない。どうしたいとか、どうなりたいとか、そんなものがそもそもない。 生きたいと思ったことがない。そんな言い訳を心の中で何度もしていた。
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