第一章 掟

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 防波堤が水平線に沿って景観から海を区切る。  空は青く、白くむくむくとした雲が時折優雅に浮かび、その青を返して海はいっそう深く蒼く、太陽の光を反して波がきらきらと輝くさまは美しい。  八月ともなれば、学校は夏休みに入り、世の中は待ちに待った夏の帰省ラッシュで、テレビではニュースが、どこそこの高速道路で何キロ渋滞しているとか、新幹線の乗車率が何パーセントを越えただとか、海外行きの航空便の利用者が何万人とかそんなことを報道して賑わうが、観光地でもない小さな港があるだけのこの漁村では、関係のない話である。  ちいさな漁村だが、唯一有する海水浴場は、もっぱら夏休みに入りたての頃は地元の子供たちでいっぱいになる。  だが、それも盂蘭盆会の前まで、の話である。盆に入った今はとっくに盛りを過ぎ、海月だらけになった海に入ろうとするものは居ない。  海水浴場も人っ子一人見当たらず、海岸も波の音が聞こえるだけだった。  小さな港も、普段ならば漁師たちが各々の漁船から大小さまざまな種類の魚を持ち寄って賑わうところだが、閑散としていた。  孟秋と呼ばれるこの季節、言葉にはそぐわず、暑さは他の比ではない。 炎天下の下、熱を帯びた風が水面を撫で、湿り気と磯の香りをはらんだ潮風となって絶え間なく漁村を襲う。原因がそれらに由来するのかはわからないが、雰囲気はどこか陰気に感じられた。
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