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口を塞ぐという行為はさすがに彼女の言葉を飲みこんで、耳に届くのは間近に聞こえる潮騒の音だけ。
手の先がほんの少し浸かるくらいの浅瀬で、時折来る少し大きな波に二人とも身体を濡らしながら。
息が止まるほどの静寂を貫いて、唇を重ねていた。
これで、嫌われたかな…
抵抗がないのは単に驚いているだけだったみたいで、ようやく身体を離して彼女を見つめるとなんだかぼんやりとしていた。
強引に押し倒して、身体はびしょ濡れで、勝手にキスなんかして。
嫌がられて当然、だったのだけれど。
「っす、凄い凄い…!」
「は…?」
「まるで何かの物語みたいね。あぁいえ、こんな展開読んだことある気がするの、何だったかしら…?ねぇ、きっとそれを真似たのでしょう?教えてくれない?」
あぁもう…
こんな時まで、彼女はこんなにも僕のことを蔑ろにして。
本当に、頼むから。
その無駄な知識ばかり詰め込んだ脳みそに、0.1グラムだっていいから僕のことを考える隙間を作って欲しい。
僕の恋心に、いい加減気付いてほしい。
「――そうだね…じゃあ、とりあえず」
もう一回していい?と。
彼女を真似て、返事も聞かぬままもう一度彼女の唇にキスを落とす。
願わくば。
近い未来、彼女が僕の想いに気付いてくれることを祈って。
―fin―
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