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穏やかな波の音を響かせる夜の海。
昼間の賑わいは消え失せ、広く続く海岸に二人きり。
控え目な月明りこそあるもののほとんどが暗闇に包まれた黒の世界で、真っ白なワンピースを着てはしゃぐ彼女の姿はあまりにも異質で美しい。
波打ち際でその手を黒い海に沈めては水飛沫を立てて遊んでいて、もう成人にもなろうという年頃の割には幼く見えた。
「水って、存在しているのが奇跡って言われているの。こんなに身近にあるのにね」
「…そうだね」
「地球の7割は海なんだもの、随分ありふれた奇跡様だって思うの」
たかが水ごときでこんなにも意気揚々とできる彼女が羨ましい。
冷めきった僕にはそんな純粋な心なんて寄り付かず、ただ水は水でその存在を日々なんのありがたみもなく享受するだけ。
「ねぇ、そういえば。海水がどうしてしょっぱいのかって話知ってる?日本の昔話にもなっているの」
こちらに話をふるクセに自分でどんどん話を進めてしまうのはいつものこと。
僕はそれを黙って聞くだけ。
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