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彼女の話は概してよく分からない。
僕が特段関心を向けないものを、彼女は知っていて、面白そうに語り続ける。
時にどこかで聞きかじったらしい逸話を。
時に高校でも習わなかった歴史の一部を。
時に無理矢理暗記だけはさせられた俳句の中身を。
博識な彼女らしく、ぽろぽろぽろぽろ。
ただその知識を鼻にかけることなく、本当にただ話のタネにして、彼女自身の見解も交えながら。
そこに僕の意見は求めず、いつの間にか彼女の話を聞くことが僕の役割みたいになっていた。
そうだね、とか。そうなんだ、って。空返事にもとれる相槌を打つだけ。
「――それで、因幡の白ウサギはワニに食べられてしまったの。ワニっていうけど、本当はサメだって言われているの。けれどウサギさんが渡りやすいのはきっとワニだと思うのよ。サメの頭って乗りにくそうな形してるものね?」
一体どこから因幡の白ウサギが出てきたのか、いつの間にやら彼女はそんな話をしている。
けれど正直それがワニだろうとサメだろうとどうでもよかった。
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