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放っておくと一晩明けそうなまでに彼女がしゃべり続けるのはいつものことだった。
波打ち際にしゃがんだまま、はしゃいだ声を闇の中に溶け込ませて笑っている。
こっちへは、見向きもしない。
そろそろ帰ろうって、僕が言うまでずっと彼女はその舌を動かし続けるのだ。
おしゃべり雀みたいにピーチクパーチク。
よくもまぁそれだけ話すことがあるものだと、僕にとってはくだらない話を、いつまでも。
…あぁもう、本当に。
「――弥生さん」
「それで……、っえ?」
白いワンピースの露出した肩を、押して。
黒い海が大きく揺れて、白い布を吸い取りながら飛沫をあげて月明りに煌めく。
長い黒髪が水に濡れて、波の流れに揺らめいて。
見開かれた大きな瞳が初めて僕を映し、まるで今の今まで忘れていたみたいに捉えて離さない。
衝撃で降りかかった海水は確かにしょっぱかったけれど、それよりも。
触れ合わせた唇は、もっと冷たくしょっぱかった。
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