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「倫ちゃんさー、犬か猫なら、どっち派?」   休み時間、自分の席でひとりぼんやりしていた甲斐くんが、体を横にして壁を背もたれにしながら話しかけてくる。 「うーん……どちらかというと犬派かなぁ」 「へぇ、俺、猫」 「そうなんだ」   教室内に残って話している人が6割、廊下やトイレに出ている人が3割、ひとりでいる人が1割。その1割に入っている私に、甲斐くんが時折こんなふうに話しかけてくるようになった。 そのほとんどは挨拶や無意味な一問一答だけれど、今の私にとっては彼がクラスの中で一番話をするクラスメイトだ。〝倫ちゃん〟呼びをやめてくれないのは少しいやだけれど。 「山か海なら、どっち派?」 「山……かな」 「俺、海」 「へぇ」   甲斐くんは、こんな会話……楽しいのだろうか?   そう思いながら横目で周りを見ると、噂好きな女子集団がパッと顔を戻して小声で話しはじめる。甲斐くんのことを見ていたのだろう。 あともうひとり、休み時間はいつも読書をしている女の子……たしか里平(さとひら)さんとも目が合った。条件反射で笑顔を返すと、彼女はふいっと目を逸らす。 「…………」   甲斐くんと話をしているだけで、これだ。 「次の授業の英文の訳、やってきてる? やってきてない?」 「やってきてる」 「じゃあ……」 「ちょっとトイレ行ってくるね」 「……行ってらっしゃい」   こんなやりとりが、2年になってから2週間続いている。  
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