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 綿のようにふわふわと空から降りてくる雪が、水面へと解けて消えていく。降り続き、音もなく海の中へ消えていくそれは、さながら、この世に在ったものを消し去るような風景に見えた。  かじかむ手を重ねて、息を吹きかける。一瞬、温かくなったように思うのだが、まるで気のせいだったと思えるほどの、ほんの短い時間だった。  揺れる小舟の上で、ボロの着物を重ねてまとい、一人、沖まで漁に来た。親父には、こんな日に海へ行くものではないと止められたが、もう食べるものがなかった。明日の生活ではない、今日の生活をどうすればいいのかと、言い捨てて家を出てきた。
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