骸骨の夢

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「分はってまふ」  ハミングバードは再び僕の方に飛んできて、既に(くわ)えていたドングリを僕の嘴に差し込んだ。 「いつもごめんね、クロウ君。お疲れさま」  ハミングバードは高い声でさえずる。僕は彼女に笑いかけてから上昇し、林の上空に出て帰路に着いた。  僕は真っ黒なんだ。だからクロウ。  ドングリには彼女の甘い匂いが残っていた。  ドングリと言えば、この時期は綺麗なドングリがよく見つかる。今日はそれを集める日だ。僕は自分の縄張りの周りを飛び回って、(つや)のあるものを厳選していた。今、とびきり光沢のあるドングリを見つけたから、とても良い気分だ。傷を付けないように咥えて、建造中の巣へ持っていく。この巣は、天然の楓の枝だけを厳選して材料にしている。特別な巣なんだ。ドングリの装飾も含めて、この巣を完成させるのが、僕のライフワークなんだ。  ……けれど、木の幹と接続する大事な枝が、いまだに見つからない。そうなんだ。一番大事なことが叶っていないんだ。ファルコンにハミングバードは若すぎる。だって、彼女は僕とタメだ。ファルコンのことは尊敬しているけど、こと恋愛に関して彼は、一回りも年下の子をたぶらかすしか能がないんだ。そんな小さい男のどこに、ハミングバードは惹かれたんだ? 僕は、悔しかった。ハミングバードに僕を見てもらいたかった。ファルコンが死んでしまえば、と思ったことさえある。その度に、そんな酷いことを考える自分が彼女に釣り合うはずがないと、後悔して、悲しくて、泣きたくなった。  でも、ファルコンは結局、本当に死んでしまった。病気がどんどん悪化して、二度と良くならなかったんだ。  彼の林に行くと、いつぞや行った時とは様子が変貌していた。縄張りのイチョウが全部枯れ果てて、色もない落ち葉が、整っていた地面をグレーに染めている。縄張りのすぐ外は紅葉が鮮やかに色を放っているのに、ここだけ真冬を迎えてしまったみたいだった。
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