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最後の一本を嵌め込んだ時、その周囲の枝が軋んだ。すぐに静かになり、そのまま、気味が悪いほど静かなまま、地上三メートルから崩れ落ちた。先ほどまで巣があったはずの場所に、僕だけが残っていて、地面に散らばった草木を見下ろしている。あれは僕の巣か?
遠くで、筋を切るような音がした。僕にはそれが不吉なものだと分かった。どこで出た音かも分かった。誰が立てた音かも分かった。だから、巣の残骸にも見切りを付けて、縄張りを飛び出した。
助けを呼びたかった。なるべく多く。しかしこんな時に限って、行く手には誰もいない。木々すらも枯れ朽ちてしまっているようだった。世界に僕だけが残されてしまったみたいに──駄目だ。僕だけであってなるものか。絶対に駄目だ!
曇り空の下に出た。細長い川が、林と林を隔てるように流れている。眼下の岸で緑の羽毛が潰れていた。
「由ぅぅぅぅぅぅ衣!」
僕は絶叫した。粟立つ全身を川縁まで落っことした。
「お願いだ──」
冷水からハミングバードを引きずり出した。
「頼む、頼む、頼む頼む頼む」
彼女を仰向けにした。右の翼が、ちぎれる寸前まで切りつけられていた。自分の鉤爪でやったんだ。その傷口を、水流に任せて……。僕は泣き叫んで、もはや皮一枚でしか繋がっていない翼を、痩せ細った体に押し込むように、由衣を抱き締めた。
「白鳥君」
焦点の合わない視線みたいな声。まだ生きている。僕の体の底の底の底から、熱い息がひゅるりと出る。
「白鳥君、離して、死なせて」
「絶対嫌だ」
「直人は、いない。生きてる、意味が、ない」
「ある。あるよ」
「ないよ……」
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