回想

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回想

 「彼女」の小説を見た時は愕然とした。いや、失望したと言った方がいいのか。  小説の書き方などどいう書籍は何冊も見てきた。でも、それぞれ主張が違う。起承転結重視だったり、とにかくオリジナリティー重視だったり、なんでもいいから、まずは書いてみる事って書かれていたり。  でも、「彼女」のはそんなレベルの話ではない。  ホラー小説を書いているんだよね?と問うたら「当り前じゃない」と怒られた。しかし、彼女のそれは余りにも抽象的な表現が多すぎて、まるっきりストーリーが見えてこないのだ。  しかもボキャブラリーが少なかった。そのため、同じ単語の繰り返しが目立つ。言葉を知らな過ぎるのだ。  本人に話の筋を訪ねても、その説明までもがそうなのが問題で、もし軸のしっかりしているストーリーならばそれを膨らまして僕が加筆修正も出来ただろうに。  扉の開く音。  その音に我に返った僕は、振り返れずにPC画面を見る。  コーヒーの香りが部屋中を満たした。普段、インスタントコーヒーしか飲まない僕には、この香りにはひと時癒される。 「進んでるようね」 コーヒーを机の右端に置きながら、「彼女」はPC画面をのぞき込んだ。 「ねえ」 ある一点に「彼女」の目が留まったようだ。 「この、アナグラムって何?」
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