第1章

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「あの、なんかすみません。シャワーまで」 ここはヴェルサイユ、なイチマツの部屋。濡れた髪を分厚いいかにも高価なタオルで扱えないまま、祥子がイチマツの前まで歩み寄る。生まれてはじめて着たバスローブは悲しい程に似合わない。 「あらあ。あなた顔だけじゃなくて身体まで貧相なのねぇ」 冷静さを取り戻したイチマツが、憐れみをたっぷりと込めて言えば 「へへっ」 と理解不能な笑顔の祥子。 「そんなことよりあなた、お仕事中じゃないの?」 ローズにゴールドのトリミング、という猫足のカウチで薔薇の花びらを浮かべた紅茶を飲みながらイチマツがちらり、祥子に視線を送る。 「あっ、えと、私求職中で。面接に行くところでした」 「はっ?!面接って?!何時からなの?!」 ガバッと勢いよく起き上がったイチマツに追った紅茶がぱしゃんとかかる。 「あっ、いや、2時からなのでぜんぜん大丈夫です」 「2時ってあなたっ、あと1時間もないじゃない!ちょっとこっちに来なさいっっ」 せっかちな祥子は約束30分前行動が常で、更に今日はお昼ご飯を現地で食べるつもりだったため、結果、2時間前行動になるはずだった。 (正直、もう面接辞退してもいいんだけどなぁ。お腹すいたし)     
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