40人が本棚に入れています
本棚に追加
1)狩り
夜明けを告げる鳥の声が、静まり返った森に響き渡る。
木の葉から滴る朝露を頬に受け、ゼノは目を覚ました。数回瞬きを繰り返し、朝靄のかかる朧げな視界に目を凝らせば、砂利の敷き詰められた川縁に残された昨夜の焚き火の跡が目に入った。腕を伸ばし、焼け焦げた木片に手をかざす。まだほんのりと熱を帯びていることから、少し前まで誰かが火を灯し続けていただろうことが窺えた。
思い当たる人物など、一人しかいない。
「マリア……?」
辺りを見回そうとゼノが身を起こすと、肩に掛けられていた布がはらりと地面に舞い落ちた。慌てて拾い上げた少し厚手の亜麻色のマントは、マリアンルージュが普段から身に付けているものだった。
交代で火の番をしていた筈なのに、マリアンルージュと番を代わった記憶がない。ゼノが眠りこけていることに気が付き、彼女が気を利かせてくれたのだろう。
マリアンルージュを守るなどと、オルランドに大口を叩いておきながら、実に情けない。
眉を顰めて額に手を充てると、ゼノは大きく溜息を吐いた。
マリアンルージュは何処に行ったのか。夜が明けるまで火の番をしていたであろうことから、そう遠くへ行っているとは考え難い。
最初のコメントを投稿しよう!