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「すまない、野宿が続くと臭うと思って、水浴びを……」
しどろもどろになりながら装いを正して向き直ると、マリアンルージュはおずおずとゼノの顔を見上げ、
「見苦しい姿を見せてしまって、その……ごめん」
まるで叱られた子供のように、しゅんとして肩を落とした。
謝るべきなのは、火の番も碌に果たさずに眠りこけてしまったゼノのほうであり、臭うのもおそらく、血塗れの上着を何日も着たままのゼノのほうだ。
マリアンルージュの先程の行動は迂闊すぎるとは思うが、謝られるようなことではない。ゼノも歴とした男であり、マリアンルージュのように容姿に恵まれた女性の際どい姿であれば、目にして嬉しいと思うことこそあれ、不快な気分になることなどないというものだ。
「いえ、貴女は女性なのですから、こちらが配慮するべきでした。昨夜のことも本当に申し訳ありません。それに、野宿が続くと臭うと貴女は言いますが、どちらかといえば良い匂――」
早口で捲し立てたところで、ゼノは慌てて口を閉じた。
思わず本音を口にするところだった。
きょとんとしてゼノを見上げるマリアンルージュの視線が痛い。
「……要するに、謝るべきなのは貴女ではなく、俺のほうだと言いたかったんです」
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