1)狩り

3/13
前へ
/247ページ
次へ
「すまない、野宿が続くと臭うと思って、水浴びを……」  しどろもどろになりながら装いを正して向き直ると、マリアンルージュはおずおずとゼノの顔を見上げ、 「見苦しい姿を見せてしまって、その……ごめん」 まるで叱られた子供のように、しゅんとして肩を落とした。  謝るべきなのは、火の番も碌に果たさずに眠りこけてしまったゼノのほうであり、臭うのもおそらく、血塗れの上着を何日も着たままのゼノのほうだ。  マリアンルージュの先程の行動は迂闊すぎるとは思うが、謝られるようなことではない。ゼノも歴とした男であり、マリアンルージュのように容姿に恵まれた女性の際どい姿であれば、目にして嬉しいと思うことこそあれ、不快な気分になることなどないというものだ。   「いえ、貴女は女性なのですから、こちらが配慮するべきでした。昨夜のことも本当に申し訳ありません。それに、野宿が続くと臭うと貴女は言いますが、どちらかといえば良い匂――」  早口で捲し立てたところで、ゼノは慌てて口を閉じた。  思わず本音を口にするところだった。  きょとんとしてゼノを見上げるマリアンルージュの視線が痛い。 「……要するに、謝るべきなのは貴女ではなく、俺のほうだと言いたかったんです」     
/247ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加