1)狩り

4/13
前へ
/247ページ
次へ
 軽く咳払いしてゼノが前言を誤魔化すと、マリアンルージュははにかむように表情を綻ばせた。 「ありがとう。相変わらずきみは優しいね」  そう言って、くすりと笑みを溢す。  マリアンルージュのその言葉は、ゼノの心の奥に眠る遠い記憶を呼び起こした。  初めて言葉を交わしたあのときも、彼女は「きみは優しいね」と言ってくれた。  それならば、イシュナードがいなくなった今でも、皆に忌み嫌われる闇色の髪の自分を「好きだ」と言ってくれるだろうか。  感傷的な気分に浸りかけていたゼノだったが、その思考を遮るように、唐突にマリアンルージュが声をあげた。 「あっ……!」 「どうかしましたか?」  ゼノが何事かと身構えると、はにかみながらマリアンルージュが告げた。 「大事なことを忘れていたよ。朝ごはんはどうする?」
/247ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加