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軽く咳払いしてゼノが前言を誤魔化すと、マリアンルージュははにかむように表情を綻ばせた。
「ありがとう。相変わらずきみは優しいね」
そう言って、くすりと笑みを溢す。
マリアンルージュのその言葉は、ゼノの心の奥に眠る遠い記憶を呼び起こした。
初めて言葉を交わしたあのときも、彼女は「きみは優しいね」と言ってくれた。
それならば、イシュナードがいなくなった今でも、皆に忌み嫌われる闇色の髪の自分を「好きだ」と言ってくれるだろうか。
感傷的な気分に浸りかけていたゼノだったが、その思考を遮るように、唐突にマリアンルージュが声をあげた。
「あっ……!」
「どうかしましたか?」
ゼノが何事かと身構えると、はにかみながらマリアンルージュが告げた。
「大事なことを忘れていたよ。朝ごはんはどうする?」
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