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法と秩序の国レジオルディネの国土の東端は深い森に覆われており、王都から続く石畳の街道が森の奥に聳え立つ要塞――軍事国家ベルンシュタインとの国境へと続いている。
その要塞までの道程の途中に、街道と交差する川がある。アーチ状の石造りの橋が架けられた、北から南へと流れる比較的大きな川だ。
レジオルド憲兵隊第十七隊と別れたゼノとマリアンルージュは、その川縁に沿い、三日程かけて森を北上していた。ベルンシュタインに向かう前に、行かなければならない場所があった。
二人の旅は順調に思われていた。だが、野宿が続いた昨夜、遂に深刻な問題が発生した。
手持ちの食糧が底を尽きたのだ。
「魚でも捕まえられたら良かったんだけど……」
濡れた髪に手櫛を通しながら、マリアンルージュがぽつりと呟いた。
何気ない愚痴とも取れるが、その言葉から、ゼノは今朝の彼女の行動をなんとなく把握できてしまった。
おそらく、マリアンルージュが朝から川に出掛けた理由は、水浴びのためだけではなかったのだ。昨夜の話を気にして一人で魚を捕まえようと四苦八苦しているうちに、川に落ち、結果的に『水浴び』をする羽目になってしまったのだろう。
眠ってしまったゼノを起こすわけでもなく火の番を代わっていたことも含め、彼女は何かと気を遣い過ぎている。食糧のことも火の番のことも、一度しっかりと話をするべきだ。
だが、差し当たり、今すべきことは決まっていた。
「空腹のままでは移動の効率が落ちますし、万が一道に迷ったりしたら取り返しが付きません。茸か木の実でも探しながら川沿いに移動しましょう」
ゼノが提案すると、マリアンルージュは大きく頷いて同意した。
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