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運良くスポーツ推薦の枠で高校へ入学したまでは良かったが、名門と呼ばれるサッカー部の練習は予想以上に過酷なものだった。月に1度か2度の休み。朝練に加えて放課後の練習も夜まで行われるため、常に俺はヘトヘトだった。
だが、そんな辛い練習に耐えられているのも妹の杏奈のおかげだ。俺は杏奈にバレないように、チラッと風呂の脱衣所からキッチンの方を覗いてみる。
「ええっと……お兄ちゃんのは少し味は濃いめで……よし、おっけ」
杏奈は真剣な眼差しで味噌汁の味付けをしていた。杏奈は俺の好みに合わせて調整をしながら毎日料理を作ってくれているのだ。
辛い練習があっても家に帰れば温かい料理と笑顔の妹が迎えてくれる。なんて俺は恵まれているのだろう。
父は3年前に会社が倒産して借金を苦に自殺、母もそれを追うように1年前に身を投げた。
つまり、今の俺にとっての肉親は杏奈だけだ。
肉親を立て続けに失い、俺たち兄妹は深く傷付き、お互いに荒んだ時期もあった。
俺自身も心を塞ぎ込み、杏奈に強く当たってしまった事だってある。
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