本の王様

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****  ソファになってるんだ。いいのかな?私は怖々、ちょっとだけ座った。  数冊の単行本と文庫本と、有名じゃないカメラマンの遺作になった写真集を一冊、隣の小さなテーブルに置いている。  やっと一冊だけ出逢えた。  大きい本屋さんは、本当に広くて迷いそうだ。後でと思っても辿り着けないかも。  少し深く座る。さあ、今日はどの子と帰ろうか。  リュックを足元に置いて、ゆっくりと座りなおした。  最初に、モノクロの写真集を手にとる。  懐かしいアングル。  懐かしい風景。  懐かしいあなたの視点。  うちに一冊あるけど、本屋さんで見たかったんよ。  あなたが出した一冊だけの写真集。  本屋さんで出逢いたかったんよ。  彼の言葉を思い出す。 「おまえの文章は癖がある。だから何回も訂正が入るんだ。」  私の文章を初めて読んでくれた日の言葉。  「でも、俺は好き。」 〈fin〉  
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