本の王様

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 ***  夢は見るけど、こんな鮮やかなのは初めて。  私は草原にいる。周りを鳥が飛んでる。いや、よく見るとそれは文庫本。羽ばたいてるみたいに。  もちろんすぐに夢だとわかった。  私は切り株に座っている。隣の切り株に誰かいる。それは赤いケープを着た三頭身の小さな王様だった。 「だれ?」  まぬけな質問。王様だよね、どっから見ても。 「王様やん。」  王様は大阪弁だった。大阪に国はないぞ。 「小さいね。」 「ちょっとな。150ミリや。あんた、もっと感動しいや。王様に会ってんねんで。」 「あっ、すいません。」  私は立ち上がって大げさに言う。  昔の映画のように、スカートの裾を持って腰を折って、頭を下げて見せた。 「ええ、ええ。」  王様は顔の前で手をひらひらさせている。ちょっと赤い顔。照れてるの?王様のくせに。 「ええ気持ちの場所やろ?ここは本の森や。あんた今日優しかったから。それにいっつも本屋でバイトでもないのに、本、大事にしてくれるから、ご褒美に連れてきたったんや。」  本の国の王様?  そりゃどうも。  夢の中だから、お礼もそこそこに思いっきり深呼吸をする。  夢の中だけどなんだか気持ちよかった。     
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