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『ねぇ、基臣(もとおみ)。こっち来て』
そう言って友人……親友は俺を蠱惑的に誘う。
酷く甘えたような声音で。
そして俺はいつもそれに従ってしまう。
誘われた先で何が待ち受けているのかを知っているのに、その時の俺はそれを拒む事が出来ないのだ。
そして毎回その誘いに乗った後に後悔をする。
俺たちは友達だったはずなのに……と。
いつから変わってしまったのだろうか。
いつからずれてしまったのだろうか。
俺にはそれが分からない。
気づいたらそうだったのだ。
俺と友人の距離は掛け違えたファスナーのように噛み合う事無く、坂を転がる歯車の様に急速にずれていった。
『基臣』
おそらく俺は気づいていたのだ。
違和感を口に出してしまえば、この関係が終わる事を。
だから友人の口から紡がれる自分の名前を聞く為に、敢えてそれに見えないふりをした。
その結果胸に燻っていた想いに名前を付けれずに関係を続けていたのだった。
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