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「臣だよ。君は?」
「おみ、臣、おみ……。俺は眞人(まさと)。まぁって呼んで」
「クスクス分かったよ。まぁ、ねぇ俺が欲しい?」
多分少し愛しく思ってしまったのはどこか雰囲気が想い人に似ていたから。
こうやって自分を売り込み相手に買わせる作業を見たわけではないが、同じような事をきっとアイツもしているのだろうと想像してしまったから。
思ったら目の前の少年……眞人を無下にすることなど出来なかった。
本当なら少し本気を出して情報だけ聞くだけだったのに……。
そして俺は蛍の様にずるい質問を眞人に投げる。
眞人から帰ってくる答えなど分かりきっているのに俺は尋ねる。
頬を赤く染め、未だ反応の兆しを見せない男の屹立をくわえながら涙を貯めた目で俺を見上げる眞人。
並大抵の男にそんな仕草を見せればイチコロだと思うが、俺はあの年中無自覚で色気を振りまいている蛍と多感な青春時代を共に過ごした。
何せ朝コーヒーをすする姿や伸びをする姿でさえ欲情を煽る性質の悪い男である。
あの頃の学園は名実ともに蛍が掌握していたし、掌握されていた生徒や教師もイキイキしていたものだった。
人の考えや行動など無視して自分の思うままに振舞う上に立つ者の蛍。
美貌と権力を振りかざし、二年前期後期、三年前期と三期の間ぶっちぎりの当選で栖鳳学園会長職に就いていた皆の女王様。
そんな女王が気に入って常に側に置いていた俺は、周りからは『付き人』だの『世話係』などとよく言われていたものだ。
それが蛍に相手をされない蛍のファンの言葉だと分かっていたし、あながち間違ってもいなかったので何も反論しなかったが。
だからコレくらいじゃ、一ミリたりともぐらつかない。
「うんっ、…俺臣のコレ欲しい」
そう言って口腔に収まりきらない部分を扱きながら俺を強請る眞人。
俺はずっと自分と向き合ってきていたが、自分で自分のことが分かっていなかったらしい。
蛍や友人たちから『似非善人』やら『隠れ冷血漢』などと言われ言われる度に首を捻っていたが、強ち間違いじゃないらしい。
「まぁのかわいいここに入れてあげるよ。おいで」
本当に大切な物の為なら、俺は平気で他人に嘘の愛を振りまけるらしい。
これでは蛍の事を責められないと思いながら、俺の張った罠に落ちてきた眞人を抱きとめたのだった。
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