本編

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逸る気持ちを抑えられない俺は約束の十五分も前に来てしまっている。 何度も手を開いたり握り締めたりして、緊張をほぐす。 深呼吸をしても緊張は収まらず、二十二年間生きていて、こんなに緊張した記憶はない。 高校受験でも大学受験でも教員試験でもこんなに緊張はしなかった。 それくらい今日と言うこの日は俺にとって重大な日なのだ。 五年前からの思いを蛍に告げる。 その結果もう蛍とは会うことが出来無くなってしまったとしても。 正直言って都合のいい話だが、最近まで碌に思い出しもし無かったくせに、もしもまた離れると思うと身が裂かれる思いだ。 あの頃と今じゃ何もかもが違う。 年、思い、身分……その他諸々。 蛍と手を取り合うことが出来たとしても、それがいつまで続くかは分からない。 俺から終わりを告げることは無いと思うが、いつまた蛍が逃げ出すか分からない。 周りからの視線だって冷たいものだろう。 自分と同じ性別の男性を愛すると決めた。 そう決めたことに後悔は無い。 それら全てから蛍を守ることは出来ないかもしれないけれど、蛍が許してくれるのならば俺の出来る範囲で守り続けたい。 考え始めると良い事も悪い事も想像は止まらないもので、これからの未来予想図は大きくなる一方だ。 まあその未来予想図も全て蛍の返事次第なのだけれども。 一目で俺が待ち合わせ相手と分かるように、先日伝えた通りの格好で待つ。 休みの日という事もあってここを待ち合わせにしている者は多いらしい。 周りから『待った?』『全然』などという声がちらほら聞こえる。 約束の時間を回った数分後、コツコツコツと足音がこちらに近づいてくるのが分かる。 それは俺の目の前で足音が止まった。 「え~と、ハジメかな?こんにちはケイです」 蛍は商売用の顔なのだろうか、俺に見せる笑顔とは違う顔でハジメに笑いかけていた。 例えるなら天使の微笑み。 相手に良い印象しか与えない、それでいて周りを惹きつける生徒会長時代に壇上でよく見た笑みだ。 相手が気に入らなかろうが、面白くなかろうが、体裁を整えるための顔。 そんな嘘だらけの笑顔でも、久々にみたアイツはとりあえず元気そうで安心する。
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