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日本国一番の高額紙幣を一枚運転手へ渡し、釣りは要らないと伝え蛍の手を引きエントランスへと入る。
蛍は抵抗する事も無く、俺に従っている。
ボタンを押しエレベーターの扉が開いたと同時に中へ滑り込み蛍の手を引く。
力を入れてなかった蛍は簡単に箱の中へ、そしてそのまま慣性に倣うように俺の胸の中へと飛び込む形になった。
自分の腕の中にある感触を一時も離したくなくて、俺は腕に力をこめる。
「っ、おい、基臣っ!」
高校時代の蛍なら人目も憚らずに自分から俺に抱きついてきていたし、人目が無い個室などではそれ以上を求めてきていた。
だが今の蛍は自ら俺から離れようとしている。
以前は受け入れられていた行為が否定されていると考えると少し悲しいものがある。
蛍の中での俺はあの頃よりも占める部分が小さくなっているのではないかと。
蛍はばたばたと俺の腕の拘束を外そうと試みるが、俺の手が顎へ掛かるとぴたりと抵抗を止めた。
蛍の亜麻色の瞳と視線が合う、その中に俺が居た。
蛍が受け入れてくれなくても、この瞳の中に俺が映るのであればそれで良いのではないだろうか。
今までは映らなかったのだから……。
そのまま顔を近づけ、自らの唇と蛍の唇を合わせた。
ここがエレベーターの中だということも分かっていたが、やめる事など出来なかった。
顎を持ち上げた際にこれから何をされるか悟ったのか、蛍は体を強張らせた。
だが唇が触れるとその強張りも解かれ、腕をゆっくりと俺の体に回してきた。
片目で今居る階を確認しつつ、徐々にキスを深いものへと変えていく。
逃げ惑う舌を自ら掬い、息をも奪うような激しいキスを交わす。
チンと言う音を立てて目的の階に到着した事をエレベーターが俺たちに知らせる。
その音で我に返ったのか蛍が焦りながら俺の胸板を叩くが、俺は抱きしめる腕に力を混め蛍の抵抗を無に帰す。
開け放たれた扉。
ここの階の住人がエレベーターを利用しようと部屋から出てきたら俺たちの行為は丸見えである。
ところが神は俺に味方したのか利用客は現れず、ボタンの『開』を押したまま俺は甘い蛍の咥内を味わった。
思う存分ゆっくりと蹂躙すると、俺は漸く口を離した。
離れた際に俺たちを繋いだ銀色の糸が変にいやらしい。
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