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「…………」
「……………」
俺も蛍も無言で胸をせわしなく上下させている。
もう蛍は抵抗する気もないのか体の力を抜いて俺にされるがままになっていた。
俺はそんな蛍の腕を再度掴むと自分の部屋へと向かい、鍵を開け蛍を先に入れながら後ろ手にドアと鍵を閉める。
そして目の前の自分より幾分か小さい存在を抱きしめる。
ここに居るのを確かめるように。
もう消えていなくなってしまわぬように。
「蛍…好きだ。頼むもうどこにも行かないでくれ。俺の目の届く場所に居てくれ。もうあんな……あんな思いをするのはもうこりごりだ」
自分の気持ちに気づけなかった高校時代。
気づけば蛍は消えており、蛍の存在を思い出さないようにしていた。
再び出合ったあの日、今まで蓋をして忘れていたせいか何をしていても蛍を考えるようになっていた。
それが恋だと気づいてからの蛍の消失。
「もう嫌なんだ。お前が居なくなるのも。俺以外に触られてんのも」
蛍は俺にされるがままになっており、動く気配は無い。
今俺が行っているのは蛍の気持ちを考えないでの告白である。
迷惑だったのかもしれない。
勝手に俺の気持ちを押付けてしまったのだから。
それでも高校時代に言えなかった想いは五年の歳月を経て今やっと口にすることが出来た。
むしろ五年経っている分蛍を想う気持ちはあの頃よりも深く重く濃厚に変貌している。
「……蛍?」
声をかけると、ビクッと肩が揺れ蛍を掻き抱いていた俺の腕には得体の知れない暖かい液体が付着する。
まさか―――――――?
「蛍!」
くるりと蛍の体を反転させ、俯いている顔を覗く。
そこに居たのは肩を震わせながらしゃくりを上げ、瞳から涙をこぼしている蛍だった。
あの強情な蛍が泣く所なんて高校時代だって見たこと無い。
誰かの為に涙を流す事とも無縁で、自分の事で泣く事も想像がつかない蛍。
つまりはそれ位……泣く位、俺の告白が嫌だったという事だろう。
悲しみでも悔しさでもなく嫌悪。
「……ごめんな。泣かせちまって……今言ったことは忘れてくれ」
やはり言わ無いほうが良かった。
言ってしまったのならもう撤回は出来ない。
受け入れられなかった想いだ。
前の様に一緒に居ることなんてできない。
言わなければ、伝えなければ、また五年前の様に惰性的な付き合いで蛍から離れなくても良かったのに。
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