偽りの恋人

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車は高層ビルの中を走る首都高を新宿で降り、デパートの地下駐車場に入った。 「行こうか」 貴史はさりげなく麻衣の手を取り、一方の手でスマホを握る。 「大亀だけど。今付きました。アテンダントをお願いします」 貴史が一方的に話す姿は、麻衣に対する態度とはずいぶん違って見えた。 「あのう、アテンダントって?」 「君の衣装の見立てをしてくれる人だよ。僕たちでドレスを選んでいたら、夜が明けてしまうだろ」 貴史はエレベーターの中で解説するとウインクする。それまでは、ぼーっとしている男だと思っていたのだが、とてもきざな男に見えた。 エレベーターを3階でおりる。目の前に黒い制服姿の女性が笑顔で待っていた。 「いらっしゃいませ。大亀さま。アテンダントの日吉でございます」 日吉と名乗ったアテンダントは深く頭を下げた。 「急な依頼で申し訳ない。彼女に一式、見立ててください。ベースの色は黒か紺、ジュエリーは、真珠で」 「シックなものがよろしいのですね。まさかとは思いますが……」 「葬式ではありませんよ。祖父母はぴんぴんしています。ただ、彼女を祖父母の前に出すのは初めてなので、出来るだけ印象をよくしたい」 「そうでございますか」 日吉がちらりと麻衣の全身に目を走らせる。僅かだが、麻衣は嫉妬の炎をそこに感じた。 「それならば、ベースは白かベージュで、紺色はポイントの方がよくはありませんか?」 「なるほどね。年寄りは白が好きか……。わかりました。あなたにすべてお任せします」 貴史はそういうと、麻衣を日吉に預けてどこかへ消えてしまった。
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