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「山形さん、足を持って!」
伊智子の力を借り、老人を浴槽から引き揚げた。
「じいさん、立派なツチノコを持ってるね」
伊智子の言葉に、思わず視線を股間にやる。ツチノコに似た突起はだらりと横たわっていて精気は感じられなかった。
火照った身体を床に下ろして胸に耳を当てるとドクドクドクと脈はある。
「冷たいタオルを」
伊智子に指示し、片膝を立てて座りなおすと老人の腹を膝に乗せて飲んだ湯を吐かせた。
ゲホッ、と音がして僅かばかりの湯が老人の口からこぼれた。同時にヒューという風の鳴る音がして、老人が呼吸を始める。
「良かった……」
身体を床に寝かせて伊智子が持ってきた濡れタオルで髪のない頭と皺の深い顔をふくと、
「ぅぐ、あ、あ、あ……」と老人が生還する声がした。
「湯にのぼせたんだね。お冷、取ってくるよ」
モップを持った伊智子が大浴場を出ていくと老人が目を開けた。
「ここは天国か?」
「いいえ。白虎温泉です」
老人に顔を近づけて教えた。
「そうか。色っぽい観音様がいると思ったのだが、まだ、この世か……」
老人が起き上がろうとするので「動かないでください。今、救急車を呼びます」と肩を制した。
「救急車などいらん。私は元気だ」
「意識を失っていたんですよ」
「見てみろ」
老人が自分の股間を指す。さっきまでだらりと横たわっていたツチノコが若者のようにそそり立っていた。
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