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ファーストコンタクトのこと
そんな日が続いたある日の事。次は移動教室だと分かってはいたが、面倒でだらけているうちに、私は教室に取り残された。
そこへひょっこり海咲ちゃんが入ってきたのだ。その時のびっくりを言葉で言い表すのは難しい。ただ、頬の温度が突然上がった。
「ね……ねえ」
話しかけられた。
え、今、私、海咲ちゃんから話しかけられた?
そうだよ、だから早く返事しろ。
「え? あ、こんにちは」
今思い返しても間抜けな返事だ。
「えと、小鳥遊さん……だよね?」
海咲ちゃんが私の名前を憶えていてくれた。日記に書きつけて置こう。私、日記なんて書いてないけど。自伝の出だしはこの場面からだ。書く予定ないけど。
「う、うん。な、何?篠崎さん」
篠崎さん。そう、彼女の苗字だ。この時初めて喋ったんだから、当然苗字呼びにもなろうというもの。今の私にしてみれば海咲ちゃんって呼び方以外ありえないけれど、この時は篠崎さんって呼び方以外なかった。
こんな些細な事にも歴史を感じる。
ともあれ、話を戻そう。
「えとね……」
しばし見詰め合う私達。
時が止まったような錯覚。永遠の刹那。
鳴り始めるチャイム。
空気読め、マジで。
「あああ、鳴っちゃったぁ……」
絶望的な海咲ちゃんの声。
最低な話だが、彼女の出す悲痛的な声ですら私にとっては新鮮で、興奮の対象となった。
「ごめんなさいぃ……」
ふわふわと謝る彼女を見ていると、もっと謝らせたいという衝動に駆られる。
いやいや、そんな場合か。
「と、とにかく移動しましょう」
私の言葉に海咲ちゃんは頷いてくれた。私の言葉に耳を傾け、それだけでなく意見を承知してくれたことに果てしない喜びを感じる私。
凄いどうでも良いんだけど、私ってヤバい?
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