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昼休みのお誘いのこと
私達は並んで廊下を走る。
愛の逃避行ではない。ただの教室移動だ。できれば、このまま二人で手に手を取って逃げ出したいところだが。
「し、篠崎さん」
全力で走りながら喋るのは辛い。移動先の教室は、階段を二階も上がらねばならない事を失念していたのも迂闊だった。だが、私以上に辛そうなのが海咲ちゃんだ。
「な……に?」
海咲ちゃんは見た目通りに運動が苦手なのだ。白い、もちのような体のあちこちを揺らしながら、走るので精一杯な彼女に、それ以上喋らせるなんて私にはできない。
否!!
先ほども言ったはずだ。彼女の悲痛的な声すら興奮の対象であると。当然、息を荒げた途切れ途切れの声だって、私にとってはいわばご馳走。
「結局、何だった?」
容赦なく話しかける私。よっ、鬼畜。
「あ……あと……で」
ふおお、色っぽーい!!
けど、それ以上海咲ちゃんは何も言わなかった。正確には、息が上がって言えなくなっていた。 それもそうか。
結局遅刻し、私と海咲ちゃんは先生にこってり怒られた。
こってり怒られている間に、授業終わりの休み時間は終わってしまった。当然、何も話せず次の授業が始まった。
そして運命の昼休みがやって来た。
「小鳥遊さん」
「あ、篠崎さん」
何気なく返事をしているが、海咲ちゃんから声をかけられた私はとても喜んでいる。クラスの視線が向けられている気がするが、特に気にもならない。
「良かったら、一緒にご飯食べない? さっきの話の続き」
「あ、うん。いいよ」
お弁当チャンス来た。
ちょうどお弁当を取り出して机の上に置いていた私は、それを動かしてスペースを作った。でも、海咲ちゃんは私の向かいには座らなかった。
「え、と?」
「中庭行かない?ゆっくり食べたいし」
クラスがざわつく。
「あ、う、うん。いこっ」
この時の喜びをどう表現すればいいのか。漫画雑誌や体験談の投稿なんかで見かけていたドラマチックシチュエーションが自分の身に起こるなんて。天にも昇りそうな気持とはきっとこの事だろう。
とりあえず言えることは、アバズレ共あばよって事ぐらいか。
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