いただきますのこと

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いただきますのこと

 二つ並んだ校舎の間にある中庭は、ちょうどベンチのところに日影が出来ていて快適だった。幸いにも先客はおらず、図らずも私達の貸切状態となる。 「なんか、貴族が庭でランチしてる気分ね」  そう言いながら、海咲ちゃんはベンチに腰かけた。 「あはは、確かに」 まあ、それにしては私の出で立ちが凡骨過ぎるので、実際のところは貴族とそのおつきの下女みたいなもんだろう。実際のところは対等な関係なので、私と海咲ちゃんは並んでベンチに腰を下ろした。 「ちょっと、暑いね?」  ううん、そんな事ないよ。日陰だし。何なら涼しいぐらい。口には出さないけれど。 海咲ちゃんは持っていた手提げバッグの中から弁当箱を取り出した。 「わ、大きいね」  何というか、運動部が持っていそうな物量重視の武骨な鈍い銀色の弁当箱だった。中にはみっしりの米と、数々のおかず達。卵焼きにから揚げ、ほうれん草の胡麻和えにタコさんウィンナー。ミートボールまで入っているところを見ると、肉がかなり好きだとわかる。 「うん、私って結構食べるんだ」  その時の私的には、結構なんてレベルを超えていたが、それは言わないで置いた。こう見えて、なかなかに空気の読める女だと自負している。 「小鳥遊さんのは……可愛いね」 「あ、ありがとう」  サイズの事を言っているのか、あるいはこの弁当箱の表面に印刷された黒猫の事を言っているのか。何となく前者であるような気がしてならなかったが、深く追求することは躊躇われた。何しろ、出会ったばかりなのだ。距離感を間違えてドン引きされてしまったら、そのショックは明日から不登校になれるレベルである。  ちなみに私の弁当は細長い長方形の二段重ねタイプだ。下段にご飯、上段にはおかずが入っている。今日は焼き鮭に卵焼き、湯掻いたインゲンとプチトマトが入っていた。
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