彼をシャッセ

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リビングのドアを開けると、温かい空気が体を包み込む。 暖炉の薪がパチパチと音を立てて燃えていた。 「おはよう、円ちゃん」 ソファーに座って新聞を読んでいたその人は、振り返って小さく微笑んだ。 「おはようございます、拓也さん」 熊谷拓也さん。 私と同じく、現在ドロフェイの家へ居候させて貰っているローザバレエ団のバレエダンサーだ。 「寒かったろ、今朝から氷点下だって」 「鼻水が止まりませんでした」 私がそう言うと、拓也さんはくすりと笑って私を手招きする。 ソファーの暖炉に近い方をトントンと叩いて座るように促した。 丁度その時、ソフィアさんが白いマグカップを持ってリビングに入ってきた。 白い湯気が立っている。 優しい匂いがした。
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