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男性と入れ替わりで、学生服を着た少年が入ってきた。
わたしは、彼にほほえみかけた。彼も、ぎこちなく笑った。
「なにか、おさがしかな?」
「えっと……」
「試験の近い時期だから、参考書とか?」
「でも、ここ、ほとんど国語しか置いてないですよね?」
「あー、まあね」
「国語は得意なんです」
「それじゃあ──」
「これ、ください」
それは、プラモデルに関する雑誌だった。
「よく見つけたね。この店にあるって、知ってた?」
「はい。友だちに聞いたんです」
「好きなんだ?」
「はい」
少年は、うれしそうに、はにかんだ。
わたしは、その雑誌を、懐かしみながら包装した。
「お友だちに、よろしく」
彼とも握手を交わし、見送る。その背中が、外光に溶けていった。
あの本が、彼の毎日に豊かさをもたらしてくれればいい。
次に来店したのは、剣道着すがたの少女だった。面をはずし、脇にかかえている。
「おつかれさま」
わたしが言うと、少女は涙ぐんだ。
「どうした? ひょっとして、なにか悩みでも?」
少女は、小さくうなずいた。
彼女は剣道にすべてをささげ、練習に練習を重ねている。
けれども、伸び悩んでいた。結果が出せない。
焦りだけが募って、部活仲間へのライバル心が、嫉妬に変質してしまう。
剣道が、ほんとうに好きなのか、わからなくなってしまった。
そう、彼女は話した。
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